エッセイ

移りゆく周囲と環境と、自己内面の不変性。

 

「実は結婚したんだ。」
店に入り、約半年ぶりの再会を祝して乾杯をした後に、E美は嬉しそうに近況をぼくたちに報告した。E美は大学時代からの友人で、実家の農業を引継ぎ、最近は講演会などにも呼ばれ忙しい毎日を送っている。そんな彼女の夢は、学生の頃から変わらず結婚することだった。その想いが強すぎたのか、男運が悪いのか、はたまた本人に問題があるのかはぼくの知るところではないが、彼女は今まで付き合った男性とほとんどうまくいっていなかった。しかし、彼女はその夢を遂に叶えたのだ。E美の惚気と結婚に至った経緯を一通りに聞いた後、
「きゃーおめでとう!めでたいね!!」
と、友人の発表を自分のことのように喜ぶK子にぼくは言った。
「K子も何か変化あったろ?報告してくれよ。」
「えぇーなぁにーもちきん?なんでそう思ったの?」
見なくとも伝わってくるくらいにウキウキしているK子はなんともいやらしい顔つきでぼくにそう言ったあと、
「12月に転職するんだー、弁理士になる!」
と彼女もまた嬉しそうにぼくたちに報告をした。弁理士とは、知的財産権等に関する業務を行うための資格者のことだ。
やはりそうか。
先程から感じる奇妙な感覚を抑えながらぼくは手元にあった烏龍茶で喉を潤した。
K子は整備士の仕事をしていたが、将来に対する不安を常に述べていて、転職をするかについて悩んでいた。悩みや愚痴を聞いた上で転職を勧めるぼくらに対し、K子は何かと理由をつけて転職しない理由を述べていたのもあり、正直彼女は転職という道は選ばないと勝手に思っていた。
「みんな変わっていくなぁー。」
ふと自然にぼくの口からこぼれた言葉にK子は
「もちきんも11月から彼女と同棲するじゃん!何言ってるのー。」
と笑いながら言う。
そう、かくいうぼくも3年間以上付き合ってきた彼女と11月から同棲をすることになっていた。
勿論嬉しいし、これから始まる新生活に期待と不安が入り混じった感情を胸に最近は過ごしている。しかし、彼女達の報告を聞きながら、ぼくはこんなことを考えていた。

E美もK子も変化している、自分を取り巻く環境も11月から少し変わる。それなのに、心だけが昔のままで、周りに置いてかれている様な焦燥感に似た感情を覚える。先程から感じている奇妙な感覚は、きっとこれだ。

「なんだろう。皆変わっていって自分も同棲したりと色々と変化があるのに、心だけが前のまま変わっていないように感じて、焦るというか、なんかソワソワする。」
「あぁーそれ分かる!」
とK子は笑いながらぼくに同意する。
「嘘つけぇい」
「本当だよ。E美の話聞いててソワソワしてるし、私前もちきんがブログ始めたって言った時ソワソワしてたもん。」
なるほど、そういうものなのか。
「えーもちきん今ブログやってるのー!?」
と驚くE美。そういえば言ってなかったな、K子には以前会った時に伝えたがE美はその日いなかった。
「そうだよー私たまに読んでるっ。」
「まじか、ありがとう。」
面と言われ恥ずかしさを覚えながら、今月に入ってまだ二つしか記事をあげていないこのブログをぼくは頭に思い浮かべていた。
「私さぁー、もしかしたら結婚しないのかも、したいけど。」
K子は落ち着いた顔で、考えるように言った。
「前の職場は結婚するなら最高だったのよ、福利厚生もいいし、仕事はほとんどしていなかったみたいなものだから凄い楽だったし。だから彼氏とも話し合ったりはした。次の職場は激務らしいし、今までの3年間を取り戻すように働きたいんだ。」
この時、ぼくはK子が”ただの人生の中での転職”ではなく、”人生の中での一つな大きな選択”をしたのだなと思った。
先程から感じている”ソワソワ”が強くなるのをぼくは感じた。大学を卒業して3年目、社会に出てあっという間に過ぎた年月は、当時知っていた人間を大きく変えるには十分な時間であることをぼくはこの時、遅ればせながら感じたのであった。

焦燥感に似た感情である”ソワソワ”を抱えたまま帰りの電車に揺られ、家に着いた。

ぼくは心の平穏を取り戻す為にお気に入りのノートPCを開いた。

 

ABOUT ME
motikin
商社勤めの20代後半♂。綺麗な音楽や写真が好き。